きしあさんお誕生日おめでとうございますー!(遅刻)

サイボーグパロな子達をそっと……


以下、公開に当たって加筆
同人誌「炉に宿すは魂の灯」の竜馬、隼人、海動、真上のその後のある日のお話です。
当倉庫で公開しております「視覚素子は笑う」とほぼ同じ設定ではありますが、一部設定変更となっております。
ご理解いただけますと嬉しい限りです。
尚、当文章中にはR指定の内容は含まれておりませんが、元の同人誌はR15指定となっております。



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甘い、甘い、それは。


すれ違った少年から微かに感じたのは甘い匂い。
何の匂いだろうか、と想いながら足早に遠ざかっていく少年の後姿を立ち止まって見つめていると
隣を歩いていた海動が不思議そうに真上の方を見てきた。
「何見てんだぁ?」
そのまま真上の視線の先を追ってから、鼻をスンと鳴らすと面白そうに目を見開いた。
「あぁ、んだよ。真上もケーキ食いてぇの?」
立ち止まった海動は大きく伸びをするように身体を逸らしながら頭の後ろで腕を組んだ。
思いきりよく反らした為か、チェストハーネスが装着された胸筋がやけに強調されたが、
海動にとってはそれが平常なのだろう。何とも思わず彼はそのまま空を眺めていた。
見えたのは、青空。
今日も良い天気だなぁ、等と間延びしたらしくない言葉は、馴染みの街に居るからだろうか。
獲物を求めながら関東地獄砂漠を彷徨っている時にはあり得ない態度に真上も今は気を張る時では無いと息を一つ吐いた。
「真上さ。お前、今日が誕生日なの?」
「何の話だ?」
前後の繋がりの分からない言葉に真上は眉根を寄せた。
「あ?ケーキっつたらよぉ……まぁ、いいや。早く竜馬と隼人んとこ行こうぜ」
説明する事も面倒なのか、先を急ぐ言葉を吐いた海動は組んでいた腕を元に戻した。
すると腕に引っ張られていたジャケットも元の位置に戻り、
チェストハーネスに取りつけたクナイとジャケットが擦れあう軽い音がした。
その音に真上は当初の予定を思い出すと、先ほどの甘い匂いを追い出す様に頭を一つ振って足を踏み出した。
真上が歩き出すのを待って海動も同じ様に足を踏み出し、隣を同じ歩幅で歩いた。

昼を過ぎた頃合いの通りは賑やかで些か自分達が居るのは場違いな気もしたが、海動と真上は隼人の診療所を目指していた。
「隼人、待ってるかな」
「それよりも竜馬の方が待ってそうだがな」
二人の脳裏に浮かぶのは、自分達の見た目の年齢よりも一回りは歳が違う友人。
街に立ち寄ったのは補給や武器の調達の為でもあったが、他にも理由があった。
海動と真上は隼人達と一つの約束をしていた。
それは、次に立ち寄った時には診療所に来るように、というモノだった。
その意図に気が付きながらも二人は面倒だ、とそれから何度か街を訪れていたが隼人達を尋ねる事は無かった。
だが、昨夜酒場に立ち寄った際にマスターからの「隼人の伝言」を聞いてしまったのだ。
どうやらマスターは隼人達と面識があるらしい。
そう大きな街では無いから珍しくないのかもしれないが、隼人は街の中でも有名人のようだ。
「あー……確かに。竜馬の方がガキだよな」
真上の言葉に海動は頷いた。
「隼人は世話焼きだが、忙しい時は放置するからな」
「だな。だから余計に竜馬が煩くなるのに」
「分かってないな」
「分かってねェよなぁ」
二人は他愛の無い会話を続けながらも歩き、目の前に現れた診療所の扉を叩いた。


「真上は竜馬のほう。海動は俺を手伝ってくれ」
「お、おう」
バイザーを付けたまま指示をする隼人に気圧されながら海動は返事をかえした。
「ぉ、真上。今日はよろしくな!」
「あぁ、頼む」
未だ壊れた装甲を直していないのか、
それとも必要な作業をするのには不向きだから交換しているのか不明だったが竜馬の右手は軽装用のモノとなっていた。
軽装とはいえ、人工のモノである事には変わらない。
その腕で竜馬はほんの僅か下にある真上の髪を子供にやるようにぐしゃぐしゃと掻き混ぜると、
こっちだ、と言いながら診療所の庭に真上を案内した。
真上は不機嫌をその精巧な表情の上に表しながらも黙って竜馬について行った。

海動と真上は訝しんでいた。
てっきり真上のメンテナンスだとか海動に対する説教だとか面倒な事をするモノだと思っていたからだ。
しかし、蓋を開けてみると実際は違うようだった。
意外と手先が器用な海動は隼人の診療の補助を、
当たり前ながら竜馬と同程度の力を持っている真上は診療所自体の補修作業……庭の掃除に駆り出された。
隼人の補助には普段は由木が付いていたが、彼女はしばらく実家の手伝いがあるとかで居ないようだった。
その結果、雑多な仕事が溜まり、集中力が必要な細かな作業に取り掛かれず隼人はイラついた日々を送っていた。
しかし、その雑多な仕事を良く言えばおおらか、悪く言えば大雑把な竜馬が出来るはずも無く。
マスターに無茶を言ってでも海動に来て欲しかった、というのが事実のようだった。


患者の義足の細部を修理していた隼人はバイザー越しに海動を見ると声をかけた。
「すまないな、海動。いきなり呼び出して」
「別に謝んなよ。俺も面白いしよ」
「はは……まぁ、少し覚えておけば真上のメンテナンスもしてやれるぞ」
「おう!」
「あぁ、ソレを取ってくれ」
「これか?」
「あぁ。ありがとう」
海動は指示された道具を手渡すとまるで踊るかのように動いている隼人の手元を飽きる事無く眺めて居た。


一方、真上は竜馬の手伝いとして庭の草むしりをしていた。
「……何故、俺が。おい、竜馬。除草剤を……」
「ダメだ。隼人が嫌がる」
地面に座りながらメキメキィと草を引きちぎっているにしては不可思議な音を竜馬は立てていた。
「隼人が嫌がるのは、お前の装甲に変なモノを付着させたくないからじゃ……」
「まぁ、あいつがメンテしなくちゃなんねぇからな」
「だろうな」
「あぁ、これが終わったらあいつがお前のメンテするって言ってたぞ」
生身の身体の為か、汗を額に滲ませた竜馬は眩しい笑顔で真上を見つめてきた。
その様子に真上は溜息を一つ吐きながら、足元にある草を同じように引きちぎった。
何故か広い庭に生えた雑草は果てしなく多く、
綺麗になった暁には家庭菜園でも始めればいいんじゃないのか、と真上はひそりと考えた。


作業が一段落ついた隼人は海動に茶を手渡し、竜馬が買ってきた茶菓子が乗った盆を差し出した。
海動は礼と共にその中の一つを手に取るとすぐさま口の中に放り投げた。
隼人も同じように一つを取ると一口食べた。
ソレは竜馬が選んだにしては珍しい甘い焼き菓子だった。
買ってきたときに何故と尋ねたら、
「たまには俺も甘いモンが食べたくなるんだ」
そう笑いながら言っていたな、と思いだした隼人は茶と一緒に舌に残る砂糖の甘さを飲み込んだ。
「なぁ、隼人さ」
「どうした?」
海動も隼人と同じ様に茶を一口飲んだ後、やけに神妙な表情で隼人の名前を呼んできた。
「これ、真上も食えんのか?」
焼き菓子を指差しながら尋ねる様は二十を超えた男とは到底思えなかったが、
隼人はそれに関しては何も言わずただ尋ねられた内容に対する疑問を投げるにとどめた。
「食べれたらどうするんだ?」
「……別にー」
盆の中からさらに一つを取って口に運ぶのを隼人は茶を飲みながら見ていた。
「……、真上の動力源は主に液体燃料だ。構造を以前確認したが……固形物からエネルギーを生成する事も可能のようだが、
あいつ自身確認した事は無いだろうな」
「じゃぁ、食えんだな」
「その行為を食べる、と表現するならば」
「そっか。うん。うん……」
海動は隼人の言葉に満足したのか、にんまりと笑うと茶を一気に煽り、立ち上がった。
「よし!隼人、続きやろうぜ!!」
「っふ……あぁ、そうだな」
隼人は眩しいモノでも見るかのように目を細めると一つ伸びをしてから作業机へと戻っていった。
海動の手伝いによって予想よりも作業が早く終わりそうだ。
そうしたら、今夜は竜馬に構ってやることができそうだ、と思うと表情がほんの僅か緩んだ。


診療所を終わらせてから大分時間が経ってから隼人の診察室に現れたのは、若干疲労の色を滲ませた真上だった。
ほぼ全てのパーツが人工物で出来た彼が疲れるのか、と言われると隼人は苦笑いを零したくなったが、
どちらかと言うと精神的な疲労によるところなのだろう、と一人頷いた。
真上は顔を上げて隼人を認識したが、其処に一緒に来た海動の姿は無かったため、声をかけた。
「海動は……」
「あぁ。あいつは、やる事があると言って先に帰ったぞ」
海動のおかげで随分と楽になった、と隼人は笑いながら真上にも礼を伝えた。
だが、真上は海動が居ない事に僅かばかりの淋しさを滲ませると小さな声を零したのだった。
「そう、か……」
「んだよ、あいつ薄情だな。真上がこんなボロボロになるまで頑張ったってのによ」
「竜馬ー?お前は?」
僅かに棘を含んだ隼人の言葉だったが、竜馬は気付かないのか、それともわざとなのか、胸を張ると言葉を返した。
「俺も頑張った!な、真上!!」
「……家庭菜園を勧める」
右斜め下あたりを見つめながら真上は小さな声を零したが、それを拾った竜馬は逆に元気な声だった。
「お、それもいいかもなー!」
「……俺も、帰っていいか?」
「あぁ。真上、有難うな。明日……いや、明後日あたり……いや、暇になった時でいいからメンテに顔出せよ」
「……?あぁ。分かった」
何故か気遣うような言葉を放った隼人を怪訝に想いながらも真上は素直に頷くと診療所を後にした。
「んだよ、隼人。どうしたんだ?」
「……いや、何……。なぁ、竜馬」
「おう」
「今夜は、忙しそうだなぁ」
「ッ……あぁ、そうだな」
その言葉を境に二人はくすくすと笑いあうと互いの腰に手を回した。
暫く邪魔をする者が居ない夜は、二人だけの時間となったのだ。


宿に戻ると海動がベッドの上で不貞腐れた顔をしていて、真上は若干げんなりとした気分になった。
「真上チャン、随分と絞られたんだな」
「あぁ……お前と違ってな」
鼻息を荒く吐き出すと、海動は枕の上に頭をぼすんと乗せた。
「あー、もう、真上チャンが遅くて俺、お腹減っちゃったー!!」
「……チッ」
わざとらしい声を上げる海動に真上はイラつきが募ったが舌打ち一つだけに留めておいた。
普段ならば銃口の一つでも向けて即座に殴り合いに突入するようなモンだが、今日は随分と精神的に疲れていた。
「真上チャンさー!!そこの冷蔵庫に食べモンあるから、取ってくんねぇー?箱に入った奴!!」
そこそこ、と部屋に備え付けられた白い冷蔵庫を枕から顔を上げずに指差す海動に真上は怒りを通り越して呆れが溢れた。
「なんで俺がお前の分の食糧を……」
「イイから取れよ」
「分かった」
これ以上言い争うのも無意味と考えた真上は海動の指示の通りに冷蔵庫から白い箱を取り出した。
「…………?」
箱から、ふわりと甘い匂いが漂ってきた。
「さっさとしろよ」
声に促されるまま箱を開けると自分達には不釣り合いに可愛らしい食料が二つ。
ご丁寧にプラスチックで出来た使い捨てらしき安物のスプーンが二つ。
つまりこれは、二人分。
「皿に出せよ!そのままじゃ食えねぇだろ!!」
「……あぁ」
海動は怒鳴ってはいるが、その声には確実に照れが混じっていた。
恐らく……今、自分の後ろで枕に埋めて隠している表情を見れば赤く染まっているに違いない。
そう考えると真上の精巧に出来た表情は笑みの形に崩れた。





Sweet fuel
「甘い、な」 「美味いだろ」 「あぁ、美味い」 「でも、甘すぎるか」 「そうかもしれない」 「なら、時折でいいか」 「たまにならいいかもな」 ----------------------------------------------------------------------------------- 2014.05.07 ちょっとオーバーしましたが! Happy Birthday Dear Kisia! From T.Teruo


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